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2024年10月17日木曜日
ランガナタン五原則と図書館の社会的効用
情報需要者(利用者)と
情報提供者 の情報を
マッチングさせるために
利用者に正確かつ有益な情報を
いかにして合理的に
アクセスしてもらうか。
これが
図書館 と
専門職である司書の役割 の
一つです。
図書館学をきちんと修め
司書として日々研鑽している方は
ランガナタン の
“ 図書館学五原則 ” は
そらんじることができると思います。
1.Books are for use.
図書は利用するためのものである。
2.Every reader his or her book.
すべての読者に,その人の本を。
3.Every book its reader.
すべての本に,その読者を。
4.Save the time of the reader.
読者の時間を節約せよ。
5.A library is a growing organism.
図書館は成長する有機体である。
この五原則は1931年に示されたもので
当時は本が貴重であったことから
本の「利用」よりも「保存」 が
主眼に置かれていた時代に掲げられた
理念です。
この五原則が今日まで
「 図書館奉仕の神髄 」 といわれ
図書館サービスの理念となって
きました。
五原則の内容 は
憲法や一般法と同じく
抽象的に表現 されていますので
実際の「図書館サービス」に
どう 具現化 していくかの研究と実践 は
竹林熊彦 氏をはじめ
多くの研究者や実務者たちが
著わしてきました。
◇ 図書館の対外活動
( 日本近代図書館学叢書第2巻 )
- 竹林熊彦 著 慧文社 2017
なお,竹林熊彦 氏の
自筆稿や蔵書など研究資料については
同志社大学図書館の
竹林文庫に保存されています。
◇ 竹林文庫 - 同志社大学図書館
それから
この 第五原則 で
A library is a growing organism.
( 図書館は成長する有機体である。)
と謳っているように
竹林 氏の時代から現在に至るまで
時代が変わり
社会の変化に伴って
図書館もそれに合った
サービスを展開する必要から
ランガナタンの
図書館学五原則自体に
手を加えようとする考えが
出てきました。
OCLC Research の研究員 である
L.S.Connaway と I.M.Faniel が
公開した
“ Reordering Ranganathan
: Shifting User Behaviors, Shifting Priorities ”
があります。
このレポートは
ランガナタンの「図書館学の五原則」
を基軸としつつ
その優先順位を並べ替え
現代社会の状況に合わせて
一から四の原則に
新たな解釈 がなされたもので
特に第四原則の
Save the time of the reader.
( 読者の時間を節約せよ。)を
最優先 として置かれました。
これらは
当時の「保存」よりも
「利用」を重視 しています。
「利用」についても
情報が溢れている昨今
その中から
情報需要者が
いかに効率的かつ正確に
情報を取得できるのか
需要者の情報行動を把握し
容易にアクセスできるよう
サポートすること。
そして
情報需要者が何を求めているか
ニーズを知ること。
それにはまず
所属する図書館に何ができるのか
自らの所属するコミュニティを
知る必要があること。
その二点を理解した上で
情報アクセスに必要な
具体的なインフラを整備し
それらを利用しやすくし
容易にアクセスできるように
整えておくこと。
これらの趣旨のもとで
打ち立てられた原則は
以下のとおりです。
1.Save the time of the reader.
( 読者の時間を節約せよ。)(旧 第四原則)
新解釈:
Embed library systems and services into users' existing workflows.
( 図書館システムとサービスを
利用者の実際の情報行動に組み込め。)
2.Every reader his or her book.
( すべての読者に,その人の本を。)(旧 第二原則)
新解釈:
Know your community and its needs.
( 所属するコミュニティとそのニーズを知れ。)
3.Books are for use.
( 本は利用するためのものである。)(旧 第一原則)
新解釈:
Develop the physical and technical infrastructure needed to deliver physical and digital materials.
( 紙媒体や電子資料を提供する物理的
技術的なインフラを発展させよ。)
4.Every book its reader.
( すべての本に,その読者を。)(旧 第三原則)
新解釈:
Increase the discoverability, access and use of resources within users' existing workflows.
( 情報行動の中で資料を発見しやすく
入手しやすく,使いやすくせよ。)
5.A library is a growing organism.
( 図書館は成長する有機体である。)
何かを調べるという行動は
そのこと自体が最終目的ではありません。
調べることによって
裁判の証拠資料としたり
論文や記事等を
作成するにあたって参考にしたり
裏付けを取ったりします。
その他にも
就職や結婚,健康など私的なことから
選挙における投票を決める材料とする
国政に対する意思決定の役割を担うなど
あらゆることを選択する際の
資料にすることが最終目的です。
その最終目的を早く達成するために
調べる時間はできるだけ短縮しつつ
目的に適合した資料・情報を入手して
合理的に行ないたいという
情報需要者のニーズがあります。
それをアシストするための
図書館サービスの理念として
ランガナタンの
「図書館学の五原則」の新解釈を
紹介しました。
他方
「 図書館の名目的効用 」という
指標があります。
これは
図書館サービスを実施することによって
どれだけの経済効果が出たのかを
表す指標 です。
図書館の名目的効用
=
購入図書の平均単価(P)
×
貸出冊数(L)
-
図書館経費(E)
という式になります。
この指標は
仮に図書館がなければ
利用者の求める資料を
書店などから購入する必要がある。
これにより
購入に要した費用(P×L)
から
図書館の管理・運営に
必要な経費(E)を
マイナスすることで
図書館があることによって
節約できた金額となるので
図書館の社会的効用とする
ものです。
この指標は単純でわかりやすいため
自治体でいうならば
図書館側が首長や議員に対して
説明するときに用いられる指標です。
この数値を上げるための策として
一人に対する一回の貸出冊数を
多くしている(例えば 30冊)
自治体の公共図書館もあります。
しかし
今の図書館サービス は
以前のように
「貸出」サービスよりも
「利用」を重視する方向へ
サービス展開を変化 させています。
そのため
やみくもに一回の貸出冊数を
多くしない自治体の図書館もあります。
こういった考えの図書館は
利用者にゆっくり見ていただけるよう
席の独占にわたらない限度で
合理的時間を設けるなど
工夫をしながら
閲覧席や椅子を増やすなどして
サービスを展開しています。
この場合
図書館の社会的効用 を
「貸出」のみではなく
「図書館の利用」としてとらえ
図書館に来館・利用してもらい
利用者の目的達成のための
資料・情報へのアクセスや
マッチングを合理化させることで
その結果
時間を節約させることにより
効用を上げています。
そこには
配架場所や請求記号の改善。
案内表示(サイン)の工夫。
パスファインダーの作成などの
物理的・技術的なインフラの構築は
もちろんのこと
利用者ニーズに合った選書。
レファレンスサービスや
児童サービスに
専門スタッフを置くことや
保育所,学童,学校等との連携。
といった
マンパワー的サービスにも
重点が置かれています。
もっとも
「貸出」も「利用」の一つであり
あからさまには言えないけれども
色々と能書きは言うものの
所詮は
“ 無料貸本屋 ” と “ 勉強部屋 ” で
それに加えて
図書館が社会教育施設という建前上
情操教育として「おはなし会」等の
児童サービスも提供すればよい。
とする考えもあり
図書館サービスの内容について
重点を置く箇所と
サービスの深度については
市区町村(中小都市)の
公共図書館の場合
各自治体で考え方が当然異なります。
それ以外にも
図書館には
利用者に新たな発想を創出させ
新たなモノやサービス,
アイデアなどを
創造することに資する効用
もあります。
この辺を述べはじめると
キリがないので
また別の機会に・・・。
なお
発想法に関する記事は
過去に
『思考・発想法としての抽象のハシゴ』
でも
色々と書き綴っていますので
関心のある方は是非 !!
~ 参考資料 ~
◇ E1611-
時代は変わり順序も変わる:
『 図書館学の五法則 』再解釈の試み
- 宮城教育大学附属図書館・吉植庄栄
- カレントアウェアネス-E
No.267 2014.09.25
- 国立国会図書館
http://current.ndl.go.jp/e1611
◇ 図書館情報学入門(有斐閣アルマ)
- 藤野幸雄,荒岡興太郎,山本順一 [著]
- 有斐閣 1997
以上
読んでいただき
ありがとうございました。