用語の話 1 法律用語の略字
刑法などの講義を受けていると
板書で Tb ,R ,S といった
記号を使う講師がいます。
要件事実のテキストにも
ブロック・ダイアグラム で
Kg ,Stg ,E といった
略字が使われています。
これは
漢字の画数が多いので
メモや板書をする際に
速く簡単に書くために
略字や記号を用います。
他にも
簿記の仕訳 で
下書き用紙にメモを取る際に
これは人それぞれですが
例えば
現金 ならば C
当座預金 は 当ヨ
売掛金 は 売×
備品 は ビ
などとメモします。
ちなみに 図書館 のことを
口 ( くにがまえ )に ト と
書きますが
この字は 圕 という漢字の略字です。
圕 これ一文字で
“ としょかん ” と読む
国字( 和製漢字 )です。
Stg や Kg も
個人のメモならば
簿記の仕訳メモと同じく
どう略して書いてもよいのですが
テキストに載っていたり
板書で書かれると
共通性があるので
記号として
覚えておかなければなりません。
この様なものは
記号として繰り返し書いていれば
自然と身に付くのですが
何の略字なのか
その意味がわかると
頭に定着すると思いますので
備忘録として記しました。
◆ 訴訟物
= Stg ⇒ Streitgegenstand
( シュトライト・ゲーゲンシュタント )
◆ 請求の趣旨
= Ant ⇒ Antrag
( アン・トラーク )
◆ 請求原因
= Kg ⇒ Klagegrund
( クラーゲ・グルント )
◆ 抗弁
= E ⇒ Einrede
( アインレーデ )
◆ 再抗弁
= R ⇒ Replik
( レプリーク )
◆ 再々抗弁
= D ⇒ Duplik
( ドゥプリーク )
◆ 再々々抗弁
= T ⇒ Triplik
( トリプリーク )
これらには
ドイツ語由来の略字 が
使われています。
またこれらの略字は
要件事実のテキスト でもある
★ 司法研修所 編『 問題研究 要件事実 』
法曹会 改訂版 2006
までは使用されていたのですが
★ 司法研修所 編『 新問題研究 要件事実 』
法曹会 2011
からは使用されなくなりました。
その他の ドイツ語由来の略字 で
よく出て来るものですと
刑法では
◆ 構成要件
= Tb ⇒ Tatbestand
( タート・ベシュタント )
◆ 違法性
= R または Rw
⇒ Rechtswidrigkeit
( レヒツ・ヴィードリヒカイト )
◆ 有責性
= S ⇒ Schuld
( シュルト )
があります。
他方
英語由来の略字 ですと
◆ 裁判官
= J ⇒ Judge
( ジャッジ )
◆ 検察官
= P ⇒ Prosecutor
( プロセキューター )
◆ 弁護士
= B ⇒ Barrister
( バリスタ ) ・・・ の
“ B ” と思われます。
なぜ アメリカ式 の
Attorney( アトーニー )の
“ A ” ではなく
イギリス式 の
Barrister( バリスタ )を
使うのかは不明です。
単純に
「 Bengoshi 」 の “ B ” なのか
それとも “ A ” は
被告人
(英語の Accused( アキューズド )
もしくは
(ドイツ語の
Angeklagte( アンゲクラークテ ))を
表してもいるので
それと区別するためなのか
わかりません。
とりあえず単なる記号なので
深く考える必要もなく
“ B ” の方が
すわりがいいから
なのかもしれません。
その他の英語由来の略字 には
◆ 証人
= W ⇒ Witness
( ウィトネス )
◆ 被告人( 加害者 )
= A ⇒ Accused
( アキューズド )
◆ 被害者
= V ⇒ Victim
( ヴィクティム )
などがあります。
ところで,
よく登場する記号に
◆ 原告 = X
◆ 被告 = Y
◆ 参加人 = Z
こういったものがあります。
これらは
外国語の略字ではないと思いますが
記号代数学 では
既知の定数 を
a,b,c,d,・・・ など
アルファベットの初めの方 で
未知数 を
x,y,z,・・・ など
アルファベットの後の方 で
表します。
それから
関数 y = f ( x ) において
x を 独立変数
y を 従属変数 と
呼びます。
現実の裁判 では
訴訟ごとに 各当事者 がいるので
原告,被告等 にはそれぞれ
名前 があります。
つまりこれは
既知のもの であるので
a,b,c,・・・ です。
ところがそれを
判例 で 共通の法理論 として
一般化 すれば
当事者としての個性はなくなるので
未知あるいは不定のもの である
x,y,z,・・・ を用いる
ということなのでしょう。
そして
独立変数 である
x を 原告 にあて,
従属する y を 被告 にあてる。
三次元的 になれば
z も登場しますから
参加人 を
z とするのだと思います。
これもあくまで記号なので
深入りしてもね・・・。
諸外国のものを取り入れて
混ぜて,パンゲア大陸のように
してしまうことは
日本の法体系も一緒ですが・・・。
ドイツだろうが
アメリカだろうが
フランスだろうが
使い勝手がよければ
それらを取り入れて
それでよしとする
日本人の考え方にマッチした
方法なのかもしれません。
以上
読んでいただき,
ありがとうございました。