法情報検索 各論 4 文献 8
法令の 条文解釈 を知りたい場合に
使用するツールとして
コンメンタール
( Kommentar:ドイツ語 )と呼ばれる
注釈書 があります。
実務においても
使用する機会の多い資料で
例えば
地方自治法 においては
いわゆる
「 松本コンメ 」(注)と呼ばれ
学陽書房 から出版されている
『 新版 逐条地方自治法 』があります。
ここでの 解釈 が
行政運用の指標 の一つになっている
といわれ
行政実務の定本 として
用いられています。
コンメンタール は
各法令の規範を体系化して解説した
体系書(基本書,概説書)に対し
法令を
条文順に1条ずつ解説 したもので
その 条文の意義,要件,効果,
関連条文,判例,学説 などが
掲載されています。
一般的には
1条ずつ全ての条文について
解説が付されていますが
ロースクール生などに向けた
コンパクトに編集されたもの等
出版の方針に従い
解説に濃淡が付けられていて
重要度の低い条文には
解説が提供されていない
コンメンタールもあります。
コンメンタール を
OPAC(蔵書検索機)で検索する場合
書名の欄 に
コンメンタール と入力して検索しても
かなりの検索漏れ が出ます。
OPAC による
件名検索 においても
憲法,民法 などといった
カテゴリーになっているので
コンメンタール という
件名(基本件名標目)がありません。
※ もっとも
「 D1 - Law.com 」の
「 法律判例文献情報 」など
有料データベースでは
コンメンタールの検索機能が
あるものもありますが
ここでは
一般的な検索方法について
述べています。
ただ “ 一般的には ”
コンメンタール(注釈書) には
書名の一部 に
注釈書であることを指す語 が
付されていますので
検索漏れを減らすテクニック として
書名の欄に
コンメンタール という語の外にも
類語 である
注釈 または 註釈,
注解 または 註解,
条解,条文解説,
逐条,逐条解説,詳説 といった語を
入力して網をかける方法があります。
最近では 第一法規 の
『 論点体系シリーズ 』
が充実していて
使い勝手のよいコンメンタールです。
なので
論点体系 という語も
頭に入れておいてください。
ただし
この 論点体系シリーズ は
各法分野の論点ごとに整理がされていて
シリーズ名や各書名に
コンメンタールを表す語を
付けていないため
編集の自由度も高く
法分野によっては
逐条形式をとらない
編集のものもあります。
例:「 論点体系 判例行政法 」
「 論点体系 判例労働法 」
コンメンタールには
先述の『 松本コンメ 』をはじめ
実務家御用達の
例えば
民法なら『 注釈民法 』
会社法なら『 会社法コンメンタール 』
刑法なら『 大コンメンタール 』
風営法なら『 注釈風俗営業法 』
その他
実務家や学生と幅広く使用されている
『 条解シリーズ 』
『 新基本法コンメンタール 』
といったように “ 定番 ” があります。
そのため
出版社も固定のユーザーが多い
既存のマーケットに切り込むには
編集方法も
趣向を変えたもので挑む必要があり
今後は編集方法も多様化されて
書名に現れない
“ 隠れコンメ ” も増えていくと
思います。
一例を挙げると
『 憲法を読み解く 』
渋谷秀樹/著 有斐閣 2021年
『 全訂 日本国憲法 』
宮沢俊義/著,芦部信喜/補訂
日本評論社 1978年
この本は息が長く
現在(2022年12月19日 時点)でも
出版されているコンメンタールです。
といったように
書名に『逐条』,『条解』などの
注釈書を表す冠が付かない
コンメンタールもあります。
さらに
先述の「 松本コンメ 」 のような
コンメンタールとは
対極 にあるといってよいもので
使用法や趣向が全く違います が
自由国民社 から出版されていた
口語民法 をはじめとする
口語六法全書シリーズ や
条文ガイド六法シリーズ。
ほかにも
木俣由美 先生の
楽しく使う会社法
といったものもあります。
自分が法学部一年生のとき
刑法の初回の授業で
一番前の席に座っていた学生が
口語訳 基本六法全書 を出していたとき
“ これは六法ではない!” と
先生からダメ出しされていました。
高尚な学者の先生からすると
“ 邪道な六法 ” 的ですが
そうはいうものの
口語六法全書シリーズ や
実例六法全書
( 過去に 実例民法,実例刑法,
実例借地借家法 が出版 )。
これらは
法学初級者 や 一般の方 向けに
わかりやすく書かれていて
amazonレビューも高評価です。
もっとも
法律は官報により
一般国民に向けて公布されています。
したがって
一般向けに
法律が理解しやすいように書かれた
こういった本は重宝されていましたが
残念ながら
現在では改訂版や新版の出版は
ありません。
これは
主要な法律自体が
現代語化〈口語化〉されてきている
ということも
理由の一つかもしれません。
そうはいっても
鉄道好きな方はご存知と思いますが
鉄道営業法 や 軌道法,鉄道抵当法。
他にも 船舶法,水難救護法 や
手形法,小切手法 など
カタカナ文語体の法令は
まだまだあります。
木俣由美 先生の
楽しく使う会社法 については
さらに砕いてギャグ要素があり
マンガ感覚で見たり
エロ語呂世界史年号,
エロ語呂日本史年号 の
エロ語呂暗記法的に使用する本
といってもいいでしょう。
( その割には お値段が高め!)
ところで
本ができるまでには
ざっくり言うと
執筆 ⇒ 原稿編集 ⇒
造本設計,原稿指定 ⇒ 組版 ⇒ 校正
⇒ 印刷工程 ⇒ 製本 ⇒ 流通
といった過程を経ます。
最近の社会情勢は
激しく変動しているので
詳しい大コンメンタールを
出版しようとすれば
執筆中や
本ができるまでの過程の途中で
判例変更があったり
法改正が頻繁に行われるので
出版社泣かせなところがあります。
他にも
編著者が諸事情により
交代するなどして
中々進まなく
完結までに長い時間がかかるとか
刊行中止になってしまうのが
現状です。
( 例,有斐閣『新版 注釈民法』,
青林書院
『 大コンメンタール 』の一部など )
なお冒頭の ^(注)書きで紹介した
『 新版 逐条地方自治法 』についての
補足ですが
松本英昭 先生 のコンメンタールは
新版 となった 2001年10月 からで
この年( 平成12年 )の 4月 には
地方分権一括法
(地方分権の推進を図るための
関係法律の整備等に関する法律)が
施行され
※ 公布は 1999年(平成11年)7月16日
(法令番号:平成11年 法律第87号)
国と地方の役割分担の明確化,
機関委任事務制度の廃止,
国の関与のルール化 などが
図られました。
そして
地方分権改革 により
東京23区 は 基礎自治体 として
東京都 は 広域自治体 とした
平成12年改革 といわれる
都区制度改革 も行われました。
この大がかかりな改正を分岐点に
逐条地方自治法 も 新版 として
リニューアルされています。
それ以前の
『 逐条地方自治法 』
第12次改訂新版
( 1995年11月 )までは
長野士郎 先生の執筆で
「 長野コンメ 」 と呼ばれています。
なお
2025年7月1日 発売の
『 逐条地方自治法 』からは
松本英昭 先生から
元総務省事務次官の 佐藤文俊 先生へ
著者が交代しています。
著者名を交えて複合検索する場合には
その辺りを留意しておいてください。
~ 先頭へ ~
以上
読んでいただき
ありがとうございました。
2025年7月1日火曜日
『伝わる書き方』を読んで思う平和主義
近代立憲主義と
日本国憲法の3原則の中の一つ
平和主義ついて考えてみます。
法律関係者には
「釈迦に説法」なので
法学初学者をターゲットにします。
先日
『伝わる書き方』(PHP研究所)
という本を
書棚から出して
再読したときがきっかけです。
著者の
三谷宏治 氏 は
K.I.T.虎ノ門大学院主任教授 で
アクセンチュア 等で
経営コンサルタントを
されていた方です。
三谷 氏の著書は
わかりやすく書かれ
僕も大いに参考にしています。
この本の内容は
文章の書き方について
① 理解しやすいように
文章を短く切り
② その文章の内容を
類型別に目次化させ
③ 読者が興味を引くように
文章に波をもたせる
というように
3つ方法に分類して
レクチャーした手引書です。
その中で
気になった箇所があります。
70頁の
日本国憲法 前文 の
“ 余計な装飾を省く ” 説明のくだりで
個人的見解と断ったうえで
日本国民は,
恒久の平和を念願し
人間相互の関係を支配する
崇高な理想を
深く自覚するのであつて
平和を愛する
諸国民の公正と信義に信頼して,
われらの安全と生存を
保持しようと決意した。
から
日本国民は,
諸国民の公正と信義に信頼して,
自らの安全と生存を
保持しようと決意した。
と文章を簡潔にしています。
省いた箇所の
恒久の平和を念願し
人間相互の関係を支配する
崇高な理想を
深く自覚するのであつて
平和を愛する
の部分を
“ 余計な装飾 ” として
省いています。
この本は憲法論について
書かれたものでなく
確かに
この箇所の表現は
『くどい言い回し』
と感じます。
ここで
近代立憲主義について考えると
近代立憲主義 とは
憲法に基づいて政治を行う考え方です。
その 3原則 は
① 国民主権
② 人権保障
③ 権力分立
です。
権力分立 とは
立法,司法,行政の
三権分立も含みますが
より広く捉えます。
日本の場合は
地方分権,行政委員会,二院制
三審制 等も含みます。
この仕組みは
権力が一つに集中しないように
権力機構を分散させ
抑制と均衡を図るものです。
一方
日本国憲法の3原則 は
① 国民主権
② 基本的人権の尊重
③ 平和主義
です。
これらの相互関係について
国民主権 および 権力分立 と
人権保障 との関係では
国民主権 および 権力分立 は
人権保障を実現するための手段です。
平和主義 と 人権保障 との関係は
平和であることは
人権保障の前提となる関係です。
では
平和が人権保障の前提
となるものならば
なぜ
平和主義が
日本国憲法の3原則には
挙げられているのに
近代立憲主義の原則には
ないのでしょう。
これは
近代立憲主義 においても
平和主義は当然のことであり
規定されなかっただけで
無視されたのではありません。
一方
日本の場合 は
二度の世界大戦を経験し
侵略によって
他国に被害 を与えました。
それと同時に
空襲や原爆投下などもあり
戦争で多くの国民に
被害 が出ました
これらを教訓として
平和主義を明文化 して
その 意義を強調 した
ものと考えられます。
だから
くどいほど繰り返して
平和を強調 していると考えます。
このように
全く関係ないところから
あらためて考え直してみたり
発想が湧いたりすることって
ありますよね。
~ 参考文献 ~
伝わる書き方 三谷宏治 著 / PHP研究所 2013
比較憲法 第3版 樋口陽一 著 / 青林書院 1992
憲法 第3版 佐藤幸治 著 / 青林書院 1995
以上
読んでいただき
ありがとうございました。