2017年2月25日土曜日
前田雅英先生と刑事訴訟法
出版社の共著についての推察
2004年6月に「東京大学出版会」より
池田修・前田雅英 両先生 共著 の
『 刑事訴訟法講義 』 の初版が
出版されました。
その後にも
『 ケースブック刑事訴訟法 』
( 弘文堂ケースブックシリーズ )
笠井治,前田雅英 編
弘文堂 2007
『 刑事訴訟法判例ノート 』
前田雅英,星周一郎 著
弘文堂 2012
『 刑事訴訟実務の基礎 』
前田雅英 編;青木英憲 [ ほか ] 著
弘文堂 2010
といったように
刑事訴訟の本が出版されています。
前田 先生というと
司法試験などで
刑法の基本書となる
体系書や演習書などを著し
前田説と呼ばれる
刑法の論理体系を築かれた先生です。
ですので
前田先生が
「 刑事訴訟法 」を書いたの?
といった印象を最初に持ちましたが
団藤重光 先生が
『 刑法綱要 』 創文社
総論 1957,各論 1964 や
『 刑事訴訟法綱要 』
弘文堂書房 1943 などを著し
平野龍一 先生が
『 刑法総論 』 有斐閣 1983 や
『 刑事訴訟法 』 弘文堂, 1954 を
それぞれ著していることを見れば
特に何も違和感はありません。
著者等の記載 について説明すると
単独執筆 の場合は ○○著 という記載なので
誰の執筆かは明確です。
他方
前田雅英 編 という記載の場合
編 というのは
パートごとに
他の数人の学者や実務家の先生が
内容を分担して執筆し
それを前田先生が全体の構成を編集し
責任者として 内容をとりまとめた
ということです。
他の記載方法については
編著 となっていれば
内容のとりまとめ に加えて
自らも執筆 しているということです。
その他には
監修 という記載方法もあります。
監修は用語や学説,理論などの
内容に誤りがないかを確認すること で
著者ではありません。
というのが一般的な意味です。
しかし実際は
編 となっていても
内容は自らも執筆している
編著 であることはありますし
監修 についても
箔をつけるだけの形式的 な
ものもあります。
さて
前田先生の刑事訴訟法 についてですが
東京大学出版会の『 刑事訴訟法講義 』 と
弘文堂の『 刑事訴訟法判例ノート 』 は
共著 という形になっています。
どこまで執筆分担しているのかは
わかりません。
これは想像の域を出ないのですが
まず
東京大学出版会の
『 刑事訴訟法講義 』については
初版の出版年月が2004年6月となっています。
法科大学院が
2004年4月に創設されたことを考えると
東京大学出版会としては
学術的な深い内容ではない
実務的な手続法の
ロースクール生向け の
基本書的なものを出版したい。
そうなると
実務家の先生 に執筆をお願いしたいが
司法試験受験生をターゲットにして
販売する場合には
内容が十分であっても
ネームバリューとして地味 であり
売れる見込みが未知数です。
司法試験受験生の購買行動 は
内容評価以前に ネームバリュー で
先導される傾向 にあるので
前田説を浸透させ
司法試験委員等も歴任し
刑法の本も相当売れた実績のある
前田先生の名前を使いたい。
というように
通常の出版社なら考えて
話しを持ちかけるのが普通でしょう。
後の2007年には
同じ手続法の
民事訴訟について著された
『 講義 民事訴訟 』 の
初版が出版されました。
こちらは
元判事の藤田広美 先生の
単著 ですが
司法協会 出版の
『 民事訴訟法講義案 』 の著者
といわれる方なので
ロースクール生向け教科書としての
内容は十分であり
学生は飛びつくと判断して
単著で行けるといった
ところだと思います。
弘文堂の
『 刑事訴訟法判例ノート 』においても
司法試験受験生の購買行動を
考えて売れるようにするためには
前田先生のネームバリュー が
必要です。
弘文堂の場合も推察ですが
出版社側とすれば
例えば
過去に出版社から本を出して
売れた実績があり
その後もよく執筆を頼まれる
先生がいるとします。
その先生が別の方を紹介しましたが
確実に売れるといった
実績が足らない場合に
その先生に 監修 として
名前を入れることを条件に
執筆させることがあります。
要するに
担保としての
名義貸しみたいなものです。
『 刑事訴訟法判例ノート 』の場合でも。
弟子に実績をつけてあげたいので
弟子の 星周一郎 先生を勧めたが
ネームバリューの問題で
前田先生の名前も出してもらう
ということだろうと思います。
ただ
『 刑事訴訟法講義 』 の場合も
『 刑事訴訟法判例ノート 』 も
同じですが。
監修 前田雅英 とすると
共著の先生に対し失礼になります。
駆け出しの研究者や実務家
または専門外の者が執筆する場合に
監修に入ってもらうのが通常で
池田修 先生や 星周一郎 先生の場合は
実務家や学者として
十分な実績があるので
共著 という形になっているのだと
思います。
もちろん
前田先生も執筆していれば
当然共著ですが・・・。
また
著者名の記載順 については
おそらく
池田先生は前田先生の大学の先輩に
あたるので
『 刑事訴訟法講義 』 については
池田修,前田雅英 の順。
『 刑事訴訟法判例ノート 』 では
星先生は前田先生の弟子 ですので
前田雅英,星周一郎 の順
ということでしょう。
また
木村光江 先生も 前田 先生の
お弟子様です。
著書の
『 刑事法入門 』 1995年
『 刑法 』 1997年
『 演習刑法 』 2003年 は
東京大学出版会 からですが
東大出身でない 木村光江 先生が
東京大学出版会 から
出版しているということは
おそらく 前田先生のご推薦 が
あったのだろうと推察します。
このように
前田先生の刑事訴訟法は
“ なぜ共著なのか ” との考えを契機に
色々と推察すると
前田説の普及とネームバリュー,
弟子の育成,行政関係の委員,
首都大でのロースクール生の育成など
数々の功績を残した事実と
人望の厚さが見えてきます。
と,まあ出版の経緯は
ご本人様に確認したわけではないので
想像の域をでませんが・・・。
出版社的にはこんな感じなのかな
といったところです。
以上
読んでいただき
ありがとうございました。