法情報検索 各論 3 判例 2
司書対象のリーガル・リサーチ研修や
公務員(事務職)希望の
文学部出身などの法律学初心者から
法令について説明をしている際に
よくある質問の中に
判例は法律なんですか?
法令のように
国民を拘束するものなんですか?
という質問がよくあります。
ちなみに法科大学院生から
このような質問を
受けたことはありません。
当然ですよね。
もちろん
判例 は 法律ではありません。
また 法令ではありません ので
国民を
直接拘束するものではありません。
ここでは
判例 とはどういう意味で使われるのか
そして
判例 と 裁判例 はどう違うのかを
説明します。
まず
憲法第76条3項を見ると
「すべて裁判官は
その良心に従ひ
独立してその職権を行ひ
この憲法及び法律にのみ
拘束される」
このように
憲法上
裁判官は憲法と法律には
拘束されますが
判例には拘束されないのです。
しかし
同じ様な事案の争いであったとき
裁判官の自由な心証によって
判断が異なれば
当事者とすれば
予測不能であり不安定です。
自分の経験上でも
簡易裁判所では
地裁以上の裁判所よりも
かなり自由な裁判が
なされているように感じます。
だから
慎重・公正な判断をするために
三審制の制度があり
法的安定性を保つために
裁判所法などで判断を拘束し
判断基準の統一がなされています。
まず
判例変更を行う場合は
最高裁判所の大法廷で審理されます。
(裁判所法10条3号)
また
最高裁判所の判例と相反する
判断がなされた場合には
民事訴訟では上告受理の申立理由
刑事訴訟では上告の申立理由
になります。
(民事訴訟法318条1項)
(刑事訴訟法405条2号)
さらに
裁判所法4条の規定において
「上級審の裁判所の裁判における判断は
その事件について
下級審の裁判所を拘束する」
とされています。
つぎに
判例 という言葉には
三つの意味があります。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
①…
個々の判決
(例)昭和49年9月26日 の判例
②…
ある特定の裁判の理由の中で
示された判断
(判決のなかで示された法理論・準則)
③…
ある問題についての
多くの判決から導き出される
裁判所の法律的な考え方
(複数の判例をすべて説明できる
共通の法理論)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「判例の意義と民事判例の読み方」
良永和隆
『専修ロージャーナル』 8巻
2013.1.25,1-29頁
「判例の意義と民事判例の読み方」
- 専修大学学術機関リポジトリ
から引用しました。
( アクセス日:2023年10月13日 )
① の個々の判決の中でも
共通の法理論として
同種の事件を裁判する際の
先例となる「判例」として
価値があると判断し
最高裁判所判例委員会が
選択したものが
「最高裁判所判例集」 に
登載されます。
そしてこの
最高裁判所判例集(民集・刑集)に
登載された判例に 調査官解説 が付くと
「法曹時報」 に
「最高裁判所判例解説」 として
登載されます。
したがって
判例を引用する場合
最高裁判所判例委員会の
お墨付きもあることから
「最高裁判所判例集」登載のものを
引用することがよいとされます。
この 最高裁判所判例集 は
毎月1回発行されます。
この時点での装丁は白の表紙で
民事と刑事が分裂していなく
民事のページの後に
刑事のページがきます。
多数の図書館では
その後に
民事 と 刑事 が 別々に製本 され
最高裁判所民事判例集(民集)と
最高裁判所刑事判例集(刑集)とに
分冊します。
つまり
白表紙のうちは
最高裁判所判例集(最高裁判例集)で
製本されると
最高裁判所民事判例集(民集)
最高裁判所刑事判例集(刑集)
に名前が変わります。
後に説明する
「高等裁判所判例集」
↓
高等裁判所民事判例集(高民集)
高等裁判所刑事判例集(高刑集)も
同様の構造になっています。
ページについては
その巻の通しのページと
その号の個別のページの両方が
付されています。
この他に
最高裁判所裁判集民事(裁判集民)
最高裁判所裁判集刑事(裁判集刑)が
「最高裁判所判例集」以外に
最高裁の裁判例を搭載した
資料としてあります。
これらは
「最高裁判所判例集」に
登載するまでではないが
参考になる判例 を
上告理由・上告趣意を含めて
登載しています。
また
名前の通り
最高裁判所判例委員会が選択した
「判例」との区別のために
こちらの資料名は
「裁判集」となっています。
ところで
「高等裁判所判例集」については
なぜ最高裁判例でないのに
「裁判例集」でなく
「判例集」と呼ばれるのかです。
最高裁の判例がないものは
高裁の判断も
判例として扱われるからです。
(民事訴訟法318条1項)
(刑事訴訟法405条3号)
手続きも
各高等裁判所の判例委員会が
高等裁判所の判例として
選択したものを
「高等裁判所判例集」に
登載するので
「判例集」とされています。
その他の裁判例ついては
裁判所判例委員会の
協議を経て選択された
「判例集」と区別するため
実務に与える影響が少ない先例を
「裁判例集」
としているようです。
検索の際には
その辺を押さえておいてください。
◆ 参考文献
・「判例の意義と民事判例の読み方」
良永和隆
『専修ロージャーナル』 8巻
2013.1.25,1-29頁
・ 判例とその読み方 中野次雄 編著 / 有斐閣 2009.4
・ 判例学習のAtoZ 池田眞朗 編著 / 有斐閣 2010.10
・ 法律文献学入門 - 法令・判例・文献の調べ方
西野喜一 著 / 成文堂 2002.7
・ リーガル・リサーチ 第5版
いしかわまりこ 他著 / 日本評論社 2016.3
判例学習において
法学部以外の方で
上記の文献では難しいと思う方は
・ 日本一やさしい条文・判例の教科書
品川皓亮 著 / 日本実業出版社 2015.1
こちらは
易しくてわかりやすいと思います。
以上
読んでいただき
ありがとうございました。